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東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)146号 判決

審決を取り消すべき事由の存否について判断する。

(本件発明と第一引用例との対比)

まず、成立に争いのない甲第三号証(昭和五二年一一月二八日付手続補正書)によれば、本件出願の特許請求の範囲第一番目に記載された特定発明及び同特許請求の範囲の第二番目に記載された発明(以下「第二発明」という。)は、ともに、「皮革又は合成皮革製の貼合わすべきバンド素材の内面に、かぶれ等の炎症を予防し且つ溶融点温度を低下すべくナイロン共重合体をアルコールの注加煮沸にて熱溶融性を持つた糊状体にして塗布し、次いで偏平な下型と彎曲面に続いて尖鋭な突出し端を有する上型間に挿入して貼合わせ周端を単一線状とするように高周波接着することを特徴」とし、特定発明が時計バンドという物に関する発明であるのに対し、第二発明は、時計バンドの製造方法である点に差異があるにすぎないことが明らかである。

一方、成立に争いのない甲第五号証によれば、第一引用例は原告出願に係る「時計バンド」の考案に関する公報であり、そこには、皮革又は合成皮革製の貼合わすべきバンド素材の内面に、かぶれ等の炎症を予防すべく熱溶着性のある合成樹脂フイルムを介在させ、次いで偏平な下型と彎曲面に続いて尖鋭な突出し端を有する上型間に挿入して熱加圧を与えて貼合わせ周端を単一線状とするように接着する時計バンドの製造方法が開示されていることが認められる。

さらに、第一引用例の記載を精査すると、その考案の目的ないし効果に関して、「従来は接着剤を両素材の突合せ面に塗布して貼合せる要領を採つてきた」(公報第一頁左欄二一行ないし二二行目)が、かかる接着剤を使用しないことによつてかぶれ等の炎症の生ずるおそれをなくしたこと(同第一頁右欄五行ないし七行目)、「表片を裏当片の双方を全く損傷することなく機械的な貼合を可能とする。」(同第一頁右欄三行ないし五行目)、「これらの作業(表地と合成樹脂フイルムおよび裏地の重ね合わせ―本判決注)は、ウエルダーの下型上に於てずれないようにして行われる。」(同第一頁右欄二三行ないし二四行目)、「この間表地と裏地は変質するような影響を全く受けないものである。」(同第一頁右欄三三行ないし三四行目)などの記載がある。

そこで、第一引用例の記載内容と対比して本件発明の特徴点を考えてみると、本件発明は、溶融点温度を低下すべくナイロン共重合体をアルコールの注加煮沸にて熱溶融性を持つた糊状体にして塗布する点及び加熱接着手段として高周波接着法を採用した点に、その特徴があるものとみとめられる。

しかるところ、成立に争いのない甲第六号証によれば、第二引用例には、ナイロン系接着剤に関し次の如き記載、すなわち、ナイロン共重合体の接着剤は、メタノール、エタノールなどの低級アルコールに溶解し、結晶性が小で融点が低いこと、メタノールに溶解して容易に一五パーセント程度の溶液をつくることができるが、加温すれば溶液は一層容易となる。この溶液(糊状体)は、ゲル化して固まつても、これを加温すれば再び溶液となり、ナイロンその他の織物の接着剤として使用できること(第五六頁右欄七行ないし一三行目、第五七頁左欄の溶剤形接着剤の説明参照)、ホツトメルト形接着剤としてのナイロン共重合体は軟かくて薄いフイルムに形成し難いが、加熱溶融温度が低い特徴があること(第五七頁左欄4ホツトメルト形接着剤の説明参照)が記載されているので、第二引用例には、かぶれることがなく融点が低い性質の接着剤としてナイロン共重合体の接着剤が開示されているといえるばかりでなく、成立に争いのない乙第一号証によれば、ナイロン共重合体の熱メタノール溶液が、液状接着剤として皮革表面に塗布して使用され、強力な接着が得られることは周知の技術であると認められる。

したがつて、第一引用例における低温で溶融する硬直性合成樹脂フイルム(ホツトメルト形接着剤の一種)の代りに、この種の液状ナイロン系接着剤を用いることとし、これを被加工物表面に塗布したのち、加工物相互を一体的に接着して積層皮革材による時計バンドを成形することは、当業者が、第二引用例記載の技術に基づいて、格別技術的創作を要することなく推考しうるというべきである。

また、成立に争いのない甲第七号証(日刊工業新聞社発行、「接着技術便覧」)の第三三五頁の記載及び乙第二号証(実公昭三八―一〇〇九五号実用新案公報)によれば、局部の小面積部分の加熱接着手段として高周波加熱接着法を用いることは本件出願前の当業者の慣用技術であつたことが認められるから、本件発明において高周波溶接手段を採用している点もきわめて容易になしうる範囲のことというべきである。

原告は、本件発明と第一引用例の技術との相違を強調し、本件発明の作用、効果として第一引用例の技術の欠点である硬直性合成樹脂フイルムのずれ動きや反撥性による戻り開き剥れ、表裏片の変色やこげつきの難点を解消したことを主張するが、これらは、本件発明が接着剤として第一引用例の硬直性合成樹脂フイルムのかわりに糊状体接着剤を塗布する方法を採用し、また第一引用例の熱加圧接着にかえて周知の高周波接着技術を用いたことにより当然予測できる効果にすぎず、前記認定の如き第一引用例記載の作用効果と比較しても格別顕著なものとは認められない。

そうすると、本件出願の特定発明及び第二発明は、ともに各引用例及び周知の高周波接着技術に基づいて容易に発明をすることができたものとした審決の判断は正当であり、原告の主張するような違法はない。

以上のとおりであるから、審決の違法を主張してその取消しを求める原告の本訴請求は理由がない。

〔編註その一〕 本件における発明の要旨は左のとおりである。

(1) 皮革又は合成皮革製の貼合わすべきバンド素材の内面に、かぶれ等の炎症を予防し且つ溶融点温度を低下すべくナイロン共重合体をアルコールの注加煮沸にて熱溶融性を持つた糊状体にして塗布し、次いで偏平な下型と彎曲面に続いて尖鋭な突出し端を有す上型間に挿入して貼合わせ周端を単一線状とするように高周波接着することを特徴とする時計バンド。

(2) 皮革又は合成皮革製の貼合わすべきバンド素材の内面に、かぶれ等の炎症を予防し且つ溶融点温度を低下すべくナイロン共重合体をアルコールの注加煮沸にて熱溶融性を持つた糊状体にして塗布し、次いで偏平な下型と彎曲面に続いて尖鋭な突出し端を有す上型間に挿入して貼合わせ周端を単一線状とするように高周波接着することを特徴とする時計バンドの製造方法。

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

図面(一)

<省略>

図面(二)

<省略>

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